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「お前、なんでいつも笑顔なんだ」
彼はボクにそう言った。なぜ笑顔なのか。当たり前過ぎるその質問。何が不思議で聞いたのだろうか。簡単なことじゃないか。愛銃を手入れする指を止め、彼に笑いかける。
「人生、笑わないと損だお?」
そんなボクを見て、彼はまるで苦虫を噛んだかのような顔をした。……。ないわぁ……。
「……いや、聞こえてるから。もう呟きじゃなくてはっきりしてるから。ねぇ、泣いていいのかな」
「聞こえるように言ってまする、まる」
彼はため息をついた。なんだ泣かないのかぁ。カメラあるのに。
「……確かに、この道をお前に教えたのは俺だ。だが、今なら俺の権力で無かったことに出来る。」
あのへんてこな質問で彼が言いたいことはわかっていた。今日はボクの人生初めての【お仕事】。一度手を出したのならば、普通の生活は夢のまた夢バイバイさよならまた来世。
彼はこれについて反対していた。ボクには普通に生きてほしいと。……ボクだって普通に生きていたかった。
だけど
「今更後には引けないお」
ボクは目を細め、彼を睨みつけた。彼もまたボクを睨む。まるでボクの瞳から心の奥底を覗き込むように。
カチッカチッ。
時間は進む。あと五分もすれば決断の時。セクシャル・ハラスなんとかかんとかで訴えようと考えはじめた矢先、不意に彼は目を逸らした。
「……わかった。今更だもんな。お前の好きにしな」
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