ささやかな幸せ

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ナーシャが、シャラト王子として王座についてから4年。 私の娘、イユメとナーシャは結婚し、3才になるサラサという名の子供が居る。 ナーシャが国の建て直しに奔走し、イユメもまた力を貸すために、1年はほとんど城を開けていたが、サラサを身ごもってからは、私と共に過ごした。 サラサが産まれると、イユメはしばらくはサラサと共に過ごし、それからまたナーシャと共に公務に追われる日々を送っている。 だが、暇を見つけてはサラサをあやしたり乳を上げるなど。 乳母に任せればいい所を自分で行っていた。 サラサを胸に抱くイユメは、女神のように美しかった。 メテリアーナに似た瞳や、おてんばさも、私にはどうしようもなく眩しくて仕方がない。 そんなイユメのそばに居られる一時が、私には幸せな時間だった。 「パパ」 突然名前を呼ばれて、私の首に暖かい腕が巻きついた。 甘く爽やかな、もぎたての果実のような匂い。 「イユメ」 私がイユメに振り返ると、イユメは私に抱きついたままこめかみにキスをした。 私はイユメに向かい合って、細い体をやんわりと抱きしめる。 「公務は終わったのかい?」 「まだよ。でも、パパとサルサに会いたくて抜け出してきちゃった!」 イユメが屈託なく笑った。こういう無邪気な所は昔から変わらない。 私を見上げる瞳も、曇る事なく澄んでいる。 私は自然と顔がほころんだ。 「テルマがまた鬼にならないかい?」 「いいのよ。勝手に怒らせておけば」 「君は王女だろう?」 イユメは私の頬を両手で包むと、強く微笑んだ。 「王女である前に、私はレイラードよ。 それは変わらないわ。変えてはならないのよ」 私だけに聞こえる声で囁く。美しい水の乙女。 「レイラード。愛しているよ」 「私もよ。パパ……愛しているわ」 額をくっつけて、祈るように囁き合う。 隔たれた時間を、少しでも埋めていくように。 私の何よりの宝物。もう二度と離れ離れになりたくなどない。 「サルサはどうしてる?」 イユメが私の手を握って引いた。 「レイトと一緒に遊んでいるよ」 と、イユメは何かに気づいたように、目を丸くした。 「パパ、右頬が少し赤いわ」 私は苦笑した。 「サルサと遊んでいたら、パンチをくらったんだ。 いいパンチだった」 イユメははっとして、それから眉ねを寄せた。 「ごめんなさいパパ。あの子ってば本当にやんちゃで……」 「男の子は元気な方がいいさ」 「……ほんと、誰に似たのかしら」
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