黄金の姫君

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暖かく柔らかい。 甘い良い香りがする。 瞼を開けると、ゆったりとした風に私のちりちりの黒髪が揺れた。 壁一面の窓から、光が差し込んでいる。 ここは、天国か……? 「目を覚ましたか」 聞き慣れない低い声に、はっと我にかえって上半身を起こす。 目の前に、銀色の髪と琥珀色の瞳をした黒いローブ姿の、男とも女ともとれる目鼻立ちのくっきりした美しい顔の人間が立っていた。 「あれ……私」 辺りを見回すと、窓の外の下の方に森が広がり、私は白いベッドに寝かされていた事に気づく。 「溺れて気を失ったのだ」 その不思議な人間はそう静かに呟いた。 そこにただ居るだけなのに、物凄い威圧感と存在感だ。 無駄な口など一言も開けない。 「あなたが……その、助けてくださったんですか?」 「仕方なくな。死なれては困る人間が居たのだ」 私ははっとした。 「では、あなたが……」 「シュラ・ド・ラーカル。 均衡を統べる者だ」 私は納得して黙った。 これ以上の会話をしない方がいいと判断したからだ。 あの金髪の人間も、助けられたのだろう。 そして、シュラの言う居なくなっては困る人間は、あの私を役立たず呼ばわりした人間なのだ。 私の様子を見て、シュラはほう、と頷いた。 「お前はどうやら、馬鹿ではないらしいな」 私がシュラをじっと見ると、シュラは口元にだけ笑みを浮かべた。 「イムナス。お前にはここで過ごしてもらおう。 生身の人間との接触は今後一切禁止する」 「分かりました」 「この城は自由に歩き回って構わない。 お前の好きな書物も山程ある。自由に読んで構わない。 だが、西の離れの塔にだけは行ってはならぬ」 「……何故ですか?」 「人間の出入りを禁止しているからだ。 人間があそこに入れば、どこに飛ばされるか分からぬのでな」 「魔法がかかっているのですね」 シュラは微笑むと、部屋から足音ひとつさせずに出て行った。 私はひとり。この広い部屋の中に取り残された。
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