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床に体を叩きつけられる。私の上には何か重く柔らかい感触のものが……
それが、人間だと気づくのは私の背中が痛み出してからだった。
「いたた……って、あなた大丈夫!?」
私を下敷きにして上に乗ってる人間が、私の顔を覗き込んだ。
金色の髪と瞳に、私は目をぱちくりさせて、その人間をまじまじと見た。
香るのは微かな塩の匂い。ほんのりと甘い太陽のような匂い。
その人間は動いて私の頬に手を伸ばした。
「……助けられるのは、これで二度目ね」
落ち着いた声。小鳥のさえずりよりも、穏やかな声。
私は体を動かせて、ゆっくりと起き上がった。
その人間も、ゆっくりと私の上から降りて、床に座ったまま見つめ合う。
ふいに、人間が笑ってみせた。
「私の名前はメテリアーナ。
あなた、怪我してない?」
私は無言で首を横に振った。
それが精一杯だった。その人間が美しいのだと気づいて、何と言えばいいのか分からなくなった。
「あなた……言葉話せる?
私の言葉、分かる?」
メテリアーナは不安そうに、私の顔を覗き込んだ。
大きな瞳、長い睫、桜色の唇……この人は美しいのだと、ぼんやりと思った。
「……話せる」
声が震えた。緊張からなのか、私はメテリアーナの金色に輝く目から瞳をそらした。
メテリアーナは私をまじまじと見て、私の体に寄り添うようにぴったりとくっついた。
私は驚いて飛び上がる。
メテリアーナが心底楽しそうに笑った。
「そんなに怯えないで?
ね。あなたの名前は?」
そう言って、再び私の体にぴったりと寄り添ってくる。
私とは違う、ほっそりとしていて少しの力で壊れそうなくらいだとどぎまぎして、私はゆっくりと名前を言った。
「……イムナス」
「イムナスね!いい名前だわ。
ふふ、あなたってシャイなの?
私を見て口説かない男なんかいないのに」
「口説く?」
聞き慣れない言葉に、きょとんとすると、メテリアーナは一瞬驚いて、それから私の頬に自分の唇を押し付けた。
「あなたって、素敵ね。まるで他の男と違うのね」
「他の男って……まるで、君は、そうじゃないみたいな言い方だな」
メテリアーナは、私の言葉の意味が分からないというようにきょとんとした。
「君は細すぎる。ちゃんとご飯は食べているのか?
それに、君はまだ子供だろう。両親は一緒じゃないのか?」
率直に思った事を言うと、メテリアーナは笑い転げた。
私は理解出来ずにメテリアーナをじっと見た。
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