金の卵、海の記憶

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天真爛漫。 この言葉こそ彼女にふさわしい。 金色のふわふわした髪、太陽のように強烈に輝く瞳。 くらくらする。 「……ス」 声が聞こえた。 「イムナス」 はっと目を覚ますと、目の前にはシュラが立っている。 相変わらずの表情のない顔。 中性的な美しさが人間離れしている。 「こんな所で寝ていては、風邪をひきますよ」 私はどうやら、うたた寝をしてしまっていたらしい。 体を起こすと、体がひどく気だるかった。 「……悪い」 私の言葉に、シュラは口元を緩ませると静かに去っていく。 足音ひとつさせず。身にまとう白いローブが窓に差すにぶい光に当たっていた。 ………あれから、一週間が経った。 メテリアーナにキスをされてから、毎晩彼女の夢を見る。 幸せで、それでいてはがゆい。太陽の匂い。唇の柔らかさ。 抱擁のあたたかさ。 忘れる事など出来そうもない。 水の国……か。 どんな国なのだろうか。 本でしか知らない私の世界。 メテリアーナがまた私の前に現れてくれるのを、心待ちにしている私が居る。 なんだか、浮き足立っていておかしい気持ちだ。 私はシュラが出掛けるのを見るたび、西の塔へ向かった。 また、メテリアーナが降ってくるかもしれないと……ほのかな期待を抱いて。 シュラが居ない間は、西の塔の扉の前に座って、読書するようになった。 でも、それからメテリアーナが私の前に現れる事は長らくなかった。
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