金の卵、海の記憶

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雪か降っていた。 ふと、本から顔を上げて窓を見ると、窓が白く曇ったまま。 その窓枠に白い雪が積もっていた。 私は本を閉じて、窓を両手で開けた。 ギィと鈍い音がして、窓が開くと同時に大量の雪が降ってきた。 「うわっ」 思わず出した声が館内に響いて、シュラに聞こえなかったと振り向いたが、響いた後はまたしんと静まり返った。 ああ、そうだ。シュラは明日の夜まで帰ってこないんだったと思い出した。 季節は春から冬に移り変わっていた。 メテリアーナに出会えたあの日は一度きり。 あれから、私はこうして雪の降る冬になるまで、西の塔に通っていたが、メテリアーナが再び私の前に姿を表す事はない。 こんなにも月日が経つと、あの日自体が幻だったんじゃないかと思えてくるほど。 夢だったんじゃないだろうか……? そう自然に思ってもおかしくないほど、シュラの館は静かだった。 まるで、あの日から何年も経ったかのような錯覚に襲われる。 冷たい冬のつんざく風に、体がつんとして、ゆっくりと窓を閉める。 それから、私は本を持ち、ランタンを手に西の塔へ向かった。 冬になってからは初めてだった。 もう、メテリアーナは来ないんじゃないかと諦めていた気持ちも強かった。 でも、今日は待ちたい気分だった。 来なくてもいい。ただ、私がメテリアーナを待っていたいのだ。 西の塔へ続くひんやりとした扉を開けると、外は大粒の雪だった。 緑豊かな森の国も、冬の間は雪が降る。 シュラの館からは見えないが、博士の元で過ごしていたあの頃は、こんな雪景色に染まる森が好きだった。 暖を取って、読書をする。こういう日はホットココアが美味しい。 雪で真っ白な道を歩いて、西の塔までやってきた。 相変わらず、魔力のせいか近寄りがたい雰囲気を発している。 寒さで体が冷えそうだったため、私は西の塔の扉を開けた。 上へと続く階段の一番下で、私は本を隣に置いて座った。 扉を閉めると、真っ暗になる。 目が慣れるまで何も見えないまま。 手探りでランタンの灯りを灯すと、目の前の扉が幻想的に浮かんだ。 何も描かれていなかった扉に、宇宙のような絵が浮かび出す。 ぎょっとして立ち上がり、扉だけでなく階段やその壁を照らすと、本の中で見た宇宙が広がっていた。 土星や木星がすぐ目の前に迫り、銀河系はぐるぐるとゆっくり回っている。 西の塔へ近づいてはならない理由が、分かった気がした。
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