ささやかな幸せ

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私とイユメが庭に出ると、よちよちと走り回るサルサと、それを追いかけるレイトの姿があった。 「わっ!サルサ様、それはいけません! サルサさ……!!」 サルサがテーブルをガタガタと揺らし、レイトはそれを止めに入ったが、テーブルがひっくり返ってレイトに当たった。 レイトは痛みをこらえ、サルサは笑いながら庭を駆け回っている。 隣でイユメが声を上げて笑った。 「相変わらずねぇ、レイト」 彼はバーモント家の最高執事であるが、暇を少しでも見つけると王宮にやってきてはサルサの面倒を見てくれている。 サルサは打った頭を撫でながら、恨めしげにイユメを見つめた。 「全く。来るたびにイタズラが過ぎます。サルサ様は」 「あら。嬉しい誉め言葉」 「誉めておりません」 「男の子なんだから、やんちゃなくらいで丁度良いわ」 イユメはくすくすと笑いながら、転がったテーブルを直した。 レイトがすかさずかわろうとしたが、イユメは朗らかに断りを入れた。 こういう……着飾らない所は、メテリアーナそっくりでどきりとする。 イユメは自分の母親を一度も見た事もなければ、その胸に抱かれる事もなかった。 「まあま」 サルサがとてとてとイユメに走り寄ってきて、イユメはしゃがみこんで両手を広げた。 「サルサ」 サルサは嬉しそうに笑い声を上げて、イユメの腕の中で幸せそうな顔をした。 イユメはサルサを抱き上げて立ち上がると、椅子に座った。 「パパ、お茶しましょう」 私に振り返って微笑む。私も微笑み返した。 「レイト、紅茶をお願い。アールグレイがいいわ」 「かしこまりました」 先程のイユメとのやり取りから一転、彼は執事の顔をすると部屋の中へと姿を消した。 私と目が合うと、軽く微笑んで会釈した。 真面目で、有能な好青年。イユメとは普段は友達みたく気兼ねなく接するのに、こういう所では仕事の顔をするとは。 イユメを心底慕ってやまない彼の心が見えてくるようだ。 私はイユメの隣に腰掛けた。 「最近、シャラト王子とは会えているのか?」 「夜に少しだけね。日中はそれぞれ公務があるもの」 イユメはサルサをあやしながら答えた。 「ちゃんと寝ているかい?」 「もちろん。ナーシャが部屋に戻る頃にはもう寝ちゃっている事がほとんどなくらい」 イユメは寂しそうに笑った。 「最近は、あまり話せていないわ」 私はイユメの頭を黙ってなでた。 こういう時、なんて言葉をかけたらいいのか私は分からない。
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