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「ありがとうパパ。優しいのね」
私は驚いてイユメから手を離した。
「優しい?私が?」
イユメは笑う。
「優しいわ。とっても」
イユメはサルサの頭を撫でて口付けた。
「不器用だけど愛にあふれたパパを……お母さんが愛した理由が、すごく良く分かるもの」
「私には、そんな価値はないんだよ」
イユメは首を横に振った。
「いいえ。パパ……過去をどうか責めないで。
私も共に背負うわ」
私の手を、やんわりと掴む小さくて暖かなイユメの手。
「いつか……お母さんの事を私に教えて」
「イユメ」
「パパの話せる準備が出来たらでいいの。
パパにとっては……きっと、すごく辛い過去だもの」
私はイユメの手を握り返して、イユメの目を覗き込んだ。
「それだけではなかったよ。とても幸福でもあった」
「お母さんの事、今でも愛してる?」
私は真心を持って頷いた。
「もちろんだとも。思い出さない日はないよ。
今もメテリアーナは私の最愛のひとだよ」
「良かった。パパには幸せでいてほしいの」
「私は十分過ぎるくらい幸せだ。幸せ過ぎて、怖いくらい」
イユメが私をじっと見つめた。
「大丈夫よ。私がその幸せが続くように守るから。
二度と失わせないわ」
瞳が輝きを放っている。ますますイユメは強くなっている。
小さかった私のイユメは、もう立派な一人の女性だ。
その成長がとても嬉しい。
メテリアーナの夢を、最近はよく見る。
イユメが彼女に似てきたからなのか。
幸せに胸が締め付けられる。ふいに泣きたくなるのは、私が年を取ったせいか……それとも。
「お待たせ致しました」
気づくと、レイトがお茶を手に持ち、傍らまで歩いてきていた。
「ありがとうレイト。さ、あなたも座って」
「イユメ様」
「断る事は承知しないわ。一緒にお茶しましょう」
レイトは迷ったように目を泳がせる。
「ですが……わっ」
イユメはレイトの腕を引っ張ると、席に座らせた。
「滅多に会えないんだもの。たまにはいいでしょ?」
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