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イユメがいたずらに笑ってみせた。
レイトはその微笑みに顔を赤くし、気を取り直すようにそっとため息をついた。
「今日だけですからね」
イユメは楽しそうに声をあげて笑った。
「やった。さすがレイト。柔軟ね」
「イユメ様には誰も勝てませんよ」
「じゃ、私レイトの分のお茶を用意してくる!」
イユメはガタンと席から立ち上がった。
胸にはサルサを抱いて。
「イユメ様!」
「いいのよレイト。この国の姫だからって、世話されてるだけなのは我慢出来ないの」
私はイユメに両手を伸ばした。
「サルサを私に。抱いていてはお茶を運べないだろう?」
イユメは嬉しそうに微笑んだ。
「さすがパパね。サルサをお願い」
サルサを私の膝の上にそっと乗せる。
「まあま」
「少しの間だけよ。いい子にしててね」
イユメはサルサの額にキスをすると、足取り軽く消えて行った。
「久しぶりに会ったというのに……全くお変わりありませんね」
レイトが困ったように、優しい目をした。
「元々、王女としての扱いは受けずに育ったから」
私はサルサをあやしながらレイトの方を向いた。
「バーモント家はどうだい?」
レイトは肩を下におろした。
「トィレル様はあれから4年経つというのに、抜け殻のように部屋に閉じこもっておりますよ」
「何が彼をそこまで……」
レイトはお茶と一緒に持ってきたクッキーをつまんだ。
「イユメ様ですよ。生まれてからずっと欲しいものは全て手に入れられたのに、唯一、イユメ様の心だけは手に入らなかった」
私は目を丸くした。
「それが今も、彼を立ち直らせない原因のひとつでしょう」
「もうひとつは?」
「シャラト様ですね」
レイトは当たり前のように話した。
「王が?何故」
「悪だと思っていた魔法使いのナーシャが実はシャラト様だったと、善だと忠誠を誓ったセオルド様には裏切られ。
しかも、イユメ様には全く相手をされずご結婚された相手がシャラト様だなんて。
プライドも何もかもがめった刺しだったのでしょう。
イユメ様がご懐妊された時なんて、1ヶ月は僕とさえ口を聞かなかったくらいなんですよ」
「それはまた、頑固な男なんだな」
レイトは力強く頷いた。
「まあ、仕事は変わらずバリバリやりますが、私生活がボロボロですよ。
たまに会うイユメ様の前では、気丈に振る舞っていますけれど」
レイトはそう言って苦笑した。
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