第一章(仮題)

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「陛下、準備が整いましてございます」 「ありがとう。並べてください」  ここはさる大国の王宮。人間が築き上げた最大の国、その中心部であるここでは国王がティータイムに入ろうとしていた。 「おお。今日のお茶はいつにもまして絶品ですね」 「イスカハーンでよい茶葉が取れたとのことで急ぎ取り寄せました。気に入っていただけて何よりでございます」  誉れ高き近衛兵数百人に身辺を守られながら優雅なひとときを過ごす国王。  燕尾服に身を包んだ執事や、フリルの付いたエプロンドレスで着飾った侍女達が、恭しく主君の身の回りの世話をする。  国王だけでなく、執事や侍女達でさえ気品に溢れて見えるくらいだ。  栄華を極めると言われるに相応しい王都の、華美な造りの王宮で催される雅やかなティータイム。その風景は、余人が見れば感嘆のため息が突いて出てしまうことだろう。  そう――、  ドカバキバッキャァァァァァァァァァン!!! 「よう国王。私も混ぜてくれよ」  城壁をぶち壊しながら現れる魔王がいなければ――。 「はは……相変わらず滅茶苦茶な方だ」  突然舞い込んだ主君の非常事態に侍女達が絹を裂くような悲鳴を上げ、近衛兵が慌ただしく動き回る中、国王は苦笑混じりに感想を漏らす。顔が若干引きつっている。 「おのれ魔王! 陛下のお命を脅かすだけに留まらず毎度毎度城壁をぶち壊しおって! 修繕費も馬鹿にならんのだぞ!?」  こめかみに青筋を立てた近衛隊長が、近衛兵を率いて魔王に文句を申し立てる。 「そう固いことを言うな。茶でも飲んで落ち着こうではないか。なあ国王?」  近衛兵も一様に得物なり杖なりを向けて呼ばれざる客に応対する中、いつの間にか国王の背後に回り込んだ魔王が「はっはっはっ」と豪快に笑いながら国王と肩を組み、馴れ馴れしく肩を叩く。  そして茶の入ったカップを無遠慮に取ると、気品の欠片もなく音を立てて飲む。 「ほお、美味いではないか。もう一杯淹れてくれよ」  更には並べられた茶菓子を食い漁りつつ、図々しくおかわりの要求。
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