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「まったく……奴(魔王)は何がしたいのだ」
通り雨ならぬ通り嵐のような魔王が去った後。
いかにも不機嫌そうな表情を顔に貼りつけた近衛隊長が暑苦しい兜を外しながら呟く。
兜を取った素顔は、意外にも年若き少女のものだった。
執事や侍女達は瓦礫掃除に勤しんでいる。
「彼の真意は分かりません。ですが、彼が人間の領土への侵攻を企てようとしないおかげで我々は安寧を得ているのですから彼には感謝しないと」
「陛下……っ!?」
独り言に返答が来るとは思わなかったのだろう。
柔らかに微笑む国王の言葉に驚いたような声を上げると、近衛隊長はその内容にも目を剥く。
「何を仰います陛下! 彼はまがりなりにも魔王。そんな悠長なことを言っていては虚を突かれます」
魔属との戦争は、正面からやり合っても人間側が不利だと言われている。
近衛隊長の懸念は尤もだ。
「油断はしてないですよ。ただ、彼は自分に嘘をつくタイプには見えませんから」
そこまでは人の上に立つ王らしく、自信に満ちた口調。
しかし、
「僕の目に狂いがなければですが」
へらっとした笑顔で付け加えた国王は、先程までとは打って変わって覇気がない。
どことなくじゃれつく子犬を連想させる笑顔だ。
「はあ……。それはそうと魔王が求めていた儀礼剣とはどのようなものなのですか?」
近衛隊長は呆れたように小さなため息をつくと、気になっていたことを尋ねる。
口調や立ち居振る舞いについても物申したい。しかしそれはのれんに腕押しだと分かっている。
とにもかくにも、国王の命が宝物庫にある宝の一つや二つで助かるなら安いものだが、魔王ほどの男が欲しがるものだ。
並大抵の代物であるはずがない。
「僕もよく知らないんですよねぇ……」
「『カミ』がどうとか言ってましたが一体?」
「さあ……。『カミ』殿……、聞かない名前ですけど……」
「ふぅむ……」
うんうん唸るふたり。結局分からずじまいのようだった。
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