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一歩を踏み出した人間は、時として、十歩先を行く人間からして赤子へほほ笑むに等しい思惑に駆られる、そんな行動をとってしまうものである。
あの時の私もまた同様であり、しかし、一歩目の人間である私にはそんなこと知る由もなかった。
その頃の私は華のキャンパスライフといううたい文句に騙された、滑稽で哀れな人形であった。
そう、高校生までの十余年。私という日蔭者でも光を浴びる日が遂に来るのだと、その足りない脳みそで考えた非現実的妄想に胸躍らしていたのである。
いわば自滅であった。
私には大学生活に、ひとつの目標とも呼ぶべき思惑があった。例のうたい文句を信じているのだから、言うまでもなく、ピンク色の、である。
しかし、元日蔭者の私である。女子との会話の方法など学ぶ機会もなかった。私の唯一の会話と言えば「消しゴム貸して……ください……」である。最後の細々と言った敬語に、悲哀の色が明々と浮んでいる。我ながらみじめなものだった。
そうは言っても、近づく方法が皆無なわけではない。ひとつ、かの一足す一を粘土を使って解き明かそうとしたというエジソンですら驚くだろうが、私にも考えがあった。 華――この言葉の指す部分の一つとしてサークル活動があった。
まさに私の考えとはそれである。男女交流の場。そこに食い込まずして何を求めると言おうか。
ここもまた、私がいかに世間知らずの阿呆であったか指し示す、ひとつの指標であった。
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