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ガタンゴトン……
汽車の走る音が聞こえる。
蒸気を吹き出して、山と山の間を抜ける、真っ赤な鉄道。
ガタゴトと揺れる汽車の中に、少女が椅子に一人……座っていた。
桃色の艶のある髪、くるりと巻かれていて肩くらいの長さ。
その髪を後ろで、金色の蝶々のバレッタで止めてある。
真っ白なシャツに茶色のジャンバースカート。
膝丈でフレアに広がる作り。
白いレースの靴下、茶色の革靴。
そして、少女のすぐ横には茶色の革で出来たバッグが置かれていた。
少女……ミレルは、椅子に座ってからと言うもの、ずっと窓の外を見ていた。
森の国から、馬車で城下町の終わりまで行き、そこから山と山の間を走る赤い汽車に乗って、2時間が経とうとしていた。
ミレルの金色の瞳は揺れている。
ミレルは微動だにせず、静かに時間を過ごした。
汽車は何度か駅に止まり、それからまた出発をした。
乗車する人は、終点に近づくにつれて少なくなった。
ミレルは、森の国と、隣の風の国の国境にある終点より一つ手前の駅で下車をした。
終点は風の国である。
国境のベロニアの森に囲まれた駅には人一人居なかった。
ミレルは鞄を右手に持って、ゆっくりと歩き出す。
木々の芽吹き。初夏の風に吹かれて。
駅には駅員がひっそりと、影のように立っていた。
この駅に降りる人はほとんど居ないためか、駅員はミレルを上から下までまじまじと見た。
それから、思い出したように声をかけた。
「久しぶりだね、ミレルさん」
しわがれた声と、頬に刻まれた傷跡。
ミレルは微笑んでお辞儀をした。
「お久しぶりです。トーガさん」
「今年も、もうそんな季節かぁ」
「はい、今年も休暇を頂きましたので」
トーガは白髪をボリボリとかいた。
「いやはや。また一段とお綺麗になりましたな」
「ありがとう。嬉しいです」
「今年はあのはちみつ色の青年は一緒じゃないんだね」
ミレルは、微笑んでどう答えようか迷った。
「……彼は、旅立ちました。だから、今年は私だけです」
ミレルはトーガと別れ、駅から出ると平坦なじゃり道を歩き出した。
人は一人も見かけない。
風の国との国境にあるためか、民家は時折ぽつりぽつりとあるのみで、田んぼや畑が広々と目の前に広がっていた。
見渡すと森や山がすぐ近くにある。
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