第1章 過去の敵を指宿で打つ

73/85
前へ
/88ページ
次へ
「───皆さんのご期待に添えるよう頑張って行きますので、どうぞよろしくお願いします」  直樹は自らの熱意を、大きな声で、身ぶりを交えながら話した。時間にしたら、およそ二分くらいだっただろうか。  直木のスピーチが済むと、福田が最後に一言添えて、ミーティングを終了させる。  円陣を解いた選手たちは、今度は外野のフェンスに沿う形で並び、ライトスタンドを見上げる。  これから新人選手が、ファンに向けて自己紹介を行うのである。優希も直樹も経験した、キャンプ初日の恒例行事だ。 「直樹、お疲れ」  優希は真っ先に直樹の隣に並ぶと、労いの言葉をかけた。 「あぁ、ありがとう。めちゃくちゃ緊張したよ」  直樹は胸の辺りをさすりながら、力が抜けていくような声を上げた。ホッとしたのか、ヘニャッとした笑みを浮かべている。 「俺はやっぱり、言葉より態度で示すことにしたよ。しゃべるのは苦手だ。───それに、ついこの間まで、あっち側だったんだしな」  直樹が「あっち側」といって示した先には、今年度のルーキー達が、今まさに名乗りを上げようと準備をしていた。去年はあそこにいたのかと思うと、優希の中に、懐かしいながらも昨日のことのような、おかしな感情が沸き起こる。
/88ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6396人が本棚に入れています
本棚に追加