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「……いや、心配すべきは、身体の調子ではないですね……むしろ、精神面の方が気がかりです」
しかし、さらに優希の観察を継続していると、笹嶋の考えが次第に変わってきた。
優希は動きも硬かったが、それ以上に目に付いたのは、表情の硬さであった。ほとんどの選手が談笑するなどして落ち着いているのに、優希だけが深刻そうな表情でアップを行っている。
やはり、例の一件が尾を引いていることは間違いないだろう。本人の心に深く突き刺さっている以上、気にするな、といくら声をかけたところで意味がない。こればかりは、本人が開き直れるようになるまで、時間が経つのを待つしかないと思われる。
しかし、「宣戦布告」してきた相手は、高卒ルーキー。まだ加減も知らなければ、失うものもない。キャンプ序盤から猛烈なアピールを仕掛けてくることが予想され、そうしたら優希の精神はさらにかき乱されることだろう。
「きっと体調不良も、精神的な部分からきているのでしょう……これ以上、何も起こらなければいいのですが……」
グラウンドではウォーミングアップが終わり、キャッチボールが始まるところだった。選手たちはグラウンドいっぱいに広がり、準備を整えている。
グローブ片手に浮かない表情を浮かべる優希を、笹嶋は不快な緊張感を持って見ていた。
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