第1章 過去の敵を指宿で打つ

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「はあ、いよいよ始まったって感じだね。これから大変だよ」  寺尾は鼻から大きく息を洩らしながら、パイプ椅子にすとんと腰を下ろした。それから、割りばしを勢いよく割る。 「そうですね、今年も始まりましたね。だんだんしんどくなりますよ」  大島は冗談めかした笑い声を上げて、味噌汁をすする。  寺尾は大島の返答を受け、「君がもう少し頑張ってくれれば、俺は楽なのにね」と切り返した。  ウォーミングアップが終わる直前、寺尾と大島は早めの昼食を取ることにした。練習中にグラウンドを出る手間を省いて、選手をくまなく観察するための判断である。選手が寺尾達と食堂ではち合わせて、気まずい思いをしないようにという配慮でもあるが。  選手がまだランチタイムでなければ、当然食堂はガラガラである。首脳陣内での内密な話ができるチャンスでもあり、選手に話せない愚痴や内部事情も吐きだせる、貴重な時間である。 「しかし、今年は監督も少しは楽になるんじゃないですか? 何せコーチがいっぱい増えましたから、グランド内をあっちこっちと飛び回らなくて済みますしね」 「そりゃそうさ。そのために雇ったんだからね。それに、俺以外の目線というのも大事だし」  しかし、あと十分弱でグループ別の練習開始となる。時間的な猶予はあまりない。二人は口を動かしながら、箸の方もせわしなく動かしていく。
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