第1章 過去の敵を指宿で打つ

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 増資が発表されたのは、昨シーズンの終了直後。親会社である古久保グループの代表取締役が、直接発表した。  わずか二十八歳の青年社長・古久保 朱宇二は、戦力が整ってきたことと、それによる成績の向上を、さらに本社の経営状況が良好なことを理由に、十億円を幕張オーシャンズ球団に増資したと、わざわざ会見を開いてまで明かした。 「資金の使い道は、寺尾監督はじめ、現場サイドの意向に任せたい。健闘を期待している」  なぜか苦虫をかみつぶしたような表情でこう告げた古久保社長は、必要な要件だけ告げて、早急に会見場を後にしたという。  資金の使い道を任された寺尾は、まずはコーチ陣を大量増員。さらに、余った資金を、本拠地、キャンプ地の設備代の頭金に充てた。  潤沢な資金力を持ったチームなら、十億という金額ははした金に過ぎないかもしれない。しかし、オーシャンズにとっては大きな収入である。突然の増資は、まさに棚からぼたもちであった。
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