第1章 過去の敵を指宿で打つ

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 どうやらオーシャンズの運気は上向きらしく、幸運は突然の増資のみには留まらなかった。  甲子園を沸かせた大型投手の獲得。  総二ほどの投手であれば指名が重複してもおかしくなかった。しかし今年は大学生に好選手が集まったおかげで単独指名に成功した。本人がオーシャンズへの入団を熱望していたこともあり、契約もあっさり済んだ。  資金もなく実績も乏しいオーシャンズは、これまで新人の獲得にも手を焼いていた。単独指名できるほどの信頼を得られないので、大型選手はくじ運次第。去年に至っては競合を避け、誰も目をつけていない人材を1,2位で指名した。 結果的にはその二人で新人王を争ったが、大失敗もあり得る大バクチであった。そんな状態だったからこそ、総二があっさり入団したのはまさに幸運といえる。そして、それだけ期待も大きいということだ。  食堂とブルペンは目と鼻の先で、移動距離は腹ごなしにもならない。寺尾と大島はパンパンの腹を突き出すような格好で、のしのし歩いていく。 「北 総二と言えば監督、今朝のスポーツ新聞はご覧になりましたか? 大胆発言があったそうで」 「ああ、見たさ。どの新聞にも書かれていたじゃないか」 「いや、さっそくやらかしてくれましたよね! これでこそ大物ルーキーという感じですね」  寺尾が反応を示したのがそんなに嬉しかったのか、大島の話し声が一段と大きくなる。寺尾は口元にわずかに笑みを含ませただけで、必要以上の返答はしない。
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