序章

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しばらくは何も出来なかった。 奈緒のいなくなった世界を受け入れたつもりでいても、どこかでそれを拒否していたから。 でも、そんな事はお構いなしに現実は甘くない。 いなくなった人は戻っては来ず、残された人は哀しみ、苦しむのだ。 「奈緒…」 ぽつりと零した言葉は静まりかえった空間に漂っては霧散していった。 それからベッドに腰掛けて部屋を見渡す。 壁にはポスターは一枚も無く、壁掛けの時を刻むのを辞めた時計とコルクボードのみ。 コルクボードにはたくさんの写真、それも僕との写真ばかり。 勉強机は綺麗に整頓されており、奈緒のマメさがうかがえる。 本棚代わりのメタルラックには参考書の他に音楽雑誌、ゲームセンターで取ったぬいぐるみが鎮座していた。 どれもこれもが奈緒がいたと言う証で… 僕には鋭く刺さった刺の様に思えた。
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