序章

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どれほどそうしていただろうか。 数分、或いは数時間かもしれない。 人がいない空間は時の流れが緩やかになっているように思えた。 ふと、頬を伝う何かに気付いた。 それに触れてみるとしっとりと濡れ、すぐに乾いてしまった。 髪の毛がまだ濡れていたのか、と頭に触れてみればそうでは無かった。 雫の道筋を辿ってみると、行き着いた先は自分の目尻。 雫の正体は涙だったのか、と気付いた矢先。 それがとめどなく溢れだした。 あぁ… 僕にはまだ流せる涙があったのか… 奈緒がいなくなってから、毎日の様に涙していた。 それが出なくなってから、涙は枯れはてたものだと思っていた。 「――っ」 堰を切った様に嗚咽が混じり、涙は勢いを増した。
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