序章

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散々泣き腫らし、目はきっと腫れているだろう。 それでも心は少しだけ、晴れた様な気がする。 「また、来るよ」 主人を失った部屋に一言告げて、出る。 それから天井を仰ぐ。 大丈夫、きっとしばらくは泣けない筈だ。 と、意味の無い決意と共にリビングへと足を運んだ。 リビングではおじさんが濡れたタオルを用意して待っていた。 恐らくは僕の嗚咽が聞こえたのだろう。 それを恥ずかしく思い、頭を掻きながらもそのタオルを借りた。 腫れて熱を持った目をひんやりとしたタオルが熱を奪い、心地よい。 「もう、いいのかい?」 おじさんは何が、とは言わない。 それは僕にとっても、おじさんにとっても認めたくない物だから。 大切な人の喪失を知った僕らだからこそ、なのかもしれない。 「えぇ、ありがとうございます。今日はこれくらいで帰ります。また来月に来ますね」 熱を吸ってぬるくなったタオルを手渡しながら、帰宅の意志を伝えると、おじさんは少し待ってくれと言う。 何かあるのだろうか?
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