序章

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しとしとと降り注ぐ雨。 天の恵み。 命の雨。 なんて言われているけれど、僕にとっては憂鬱な雨でしかない。 「雨――か。」 小さく呟いて歩みを進めると目的地の交差点が見えてきた。 その交差点は特に変わった交差点と言う訳ではない。 ただ、僕にとっては特別であるだけ。 「今年も来たよ。奈緒。」 誰に向けた訳でもなく。 知り合いに話しかけた訳でもない。 ただ、そう口にしなければ心が折れる。そんな気がした。 「そっちはどう?」 横断歩道の左隅、信号を支える電信柱の根元に、彼女の好きだった菖蒲の花を添える。 「傘、邪魔だな。」 僕は差していたビニール傘を畳んで添えられた花の傍に缶コーヒーを添える。 雨に濡れるのを構わず、周囲からの視線を気にせず。 ただ、立ち尽くす。
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