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「これ、預かってきたの?」
僕が尋ねると、志筑は腕を組んで「ペーパーナイフ、要るか?」と言った。
「いいよ、自分で取ってくる」
そう答えて、膝の上に封筒を置き車椅子の車輪を転がす。
広くはないアトリエの奥の、アンティーク然とした書き物机は、父の物だ。
よく手紙のやり取りをしていた父は、上等の文房具を大切に使っていた。
引き出しからペーパーナイフを取り出し、机の上で封を開けた。
僕がこの山荘で療養するようになってから、この机の椅子は机の正面でなく真横に置かれている。
車椅子のままで僕が机を使うから。
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