何もない草原

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 後ろから足音が聞こえたかと思うと、僕のすぐ左を、ひとりの少年が通過していった。  ちらりと見えた横顔には、なんの表情も浮かべていなかった。 「どこへ行くの?」  その背中が遠くなる前に、僕は彼に声をかけていた。なんだか、今声をかけなければ、僕はこの先に進めないような気がしたんだ。  少年は振り向いた。僕の顔を見たときは無表情だったが、すぐにほんのりとした笑顔を浮かべた。 「旅に行くんだ」  彼の顔は、いや、頭のてっぺんから爪先まで、よく知っている気がする。彼の名前だって何度も呼んだことがある気がする。  気がする、というのは、彼が誰なのか、なんて名前なのかが、ちっとも思い出せないからだ。  知らないわけでも忘れたわけでもない。思い出せないのだ。 「旅?」 「そう。自分探しの旅さ」
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