何もない草原

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 そう言うと彼はもう一度僕の顔を、いや、その奥一一つまり僕の背後を見据えた。  僕もつられて後ろを見ると、空に向かってそびえ立つビルが視界いっぱいに飛び込んできた。  首をめいっぱい上に向けて、やっと見えた屋上にはアドバルーンが風を受けて浮かんでいる。どうやら彼の言ったとおりデパートのようだ。  だがいつの間にこんな建物ができたのだろう。さっき僕が周りを見渡したときには、こんな大きな建物はなかった。  僕がただ不思議に思っていると、少年はなんの躊躇いもなく入口の自動ドアに向かい歩いていった。  自動ドアは音もせずに開いた。ドアの奥は暗くて何も見えない。全てを吸い込んでしまいそうで、腹の奥が縮こまる感覚を覚えた。 「君も来てみなよ。きっと楽しいよ」  そう言って少年は、溶けるように、ドアの奥の暗闇に進んでいった。  その闇に、生理的な威圧感を感じながらも、僕も少年の背中を追った。
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