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一歩、足を踏み入れると、塗り潰したような闇はふっと消え去り、明るいデパートの内装が明らかになった。
それはデパートなのだが、デパートとはおよそ呼べないような光景だった。
最先端の服や靴が並んでいるはずの陳列棚には何ものっていなく、ガラスの向こうのマネキンは宣伝も何もしていない格好……もっと簡単に言えば全裸だった。
それに、この建物の中は人の気配を微塵も感じない。他の客も、店員さえもいないのだ。まあ商品がないなら客が来るはずないが。
こういう何もない所には、絶対何かある気がする。隅から隅まで、それこそ埃ひとつも見逃さないように調べてみたい気になる。
僕が店内を見回している間にも、少年は僕のことなどお構いなしに先へ進んでいく。さすがにこんな所でひとりになるのは嫌なので、小走りであとを追う。
「ねえ。どうしてこのデパートは何も売ってないの?」
追いついたついでに彼に尋ねた。進んでこのデパートに入った彼ならその理由も知っているかもしれない。
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