谷口 正彦

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        それから、10年が過ぎた。       谷口『ちょっと!誰が死にかけた羊なんすか!ひどいっすよ、もぉ~!』     わっと沸く会場。     俺は今、芸人としてバラエティ番組の収録に参加している。     すべて坂本さんのおかげだ。       あのとき、坂本さんが俺に与えた「罰」。     それは、「関わった人に徹底的にいじり倒されるようになる」というものだった。     罰が それだということに気付いたのはすぐだったが、 芸人になろうと思うまでには時間がかかった。     しかし、俺は思ったのだ。   これは 坂本さんからのアドバイスだ、と。     そして俺は、この罰を 芸人に活かすことに決めたのだ。     芸人になってからは、とても順調だった。     ネタを作る力はないのでネタはすべるのだが、 それを出演者がいじり、笑いを生み出していく。     いわゆる「すべり芸」というやつだ。     テレビや営業で経験を積んでいくことで、いじりやすいすべり方もわかって来た。 今では、冠番組はないものの深夜番組のレギュラーを3本持ち、 「深夜の直滑降芸人 谷口正彦」 というなんかよくわかんないあだ名で、そこそこの人気を得ている。       先輩芸人『谷口とこの前 呑みに行ったんだけどさぁ..』     谷口『あぁ!山下さん!その話はダメ!レギュラー降ろされちゃう!』     司会『あれー?谷口、そんなまずいこと言っちゃったのー?』     谷口『い..いやぁ...』     そう言うと、会場がもう一度沸く。   笑いをとるって気持ちいいな。     そのとき、会場の影に ちらっと坂本さんが見えたような気がした。     坂本さんらしき人は、 こっちをみて まるで保護者のような笑みを浮かべていた。       ありがとう、坂本さん。      
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