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二人の話を聞いていると、右隣に座っていた女の子が、
「何か飲む?」
と空の紙コップを差し出しながら、尋ねてくれた。
傾げた頭から首、鎖骨、胸へと、緩く巻かれた髪が揺れている。
「えっと…ウーロン茶にしようかな。」
テーブルに揃えられた、たくさんのペットボトルや瓶を見ながら、私は答えた。
「やっぱり緊張するよね。私も1年生なの。
ウーロン茶、今入れるね。」
そう言って彼女は、貝殻のようなサーモンピンクの爪と指先で、ペットボトルのキャップを開ける。
ウーロン茶が、タプタプと波打ちながら紙コップに溜まって行くのを見つめる彼女の目に、くるんとカールした長いまつげが影を落としている。
「私、葵って言うの。永瀬葵。」
「私は、柏木さや。」
「さや、ね。よろしく」
私はこの時すでに、この子と友達になりたいと、強く感じていたと思う。
それは、綺麗なものや素敵なもの、高貴なものを、手に入れたい、いつでも近くに置いておきたい、そんな所有欲に似た感情だったかもしれない。
葵と同じ大学に入り、同じサークルを選び、今こうして出逢えたことが、偶然以上の意味を持った、特別なことのように思えた。
葵とはそれから、サークルに入ってどこへ旅したいか、何学部か、出身はどこで、今は一人暮らしなのかそれとも実家に住んでいるのか…、そんなことを互いに尋ね合った。
葵は東京生まれの東京育ちで、東京の郊外にあるこの大学には、実家から電車で30分ほどかけて、通っているとのことだった。
私と同じ法学部であることがわかり、同じ講義を5つほど履修していることもわかった。
それらの講義では、一番後ろの右端の席で待ち合わせて、一緒に講義を受けようと約束もした。
しばらくすると、葵の膝の上で、携帯のランプが点滅した。
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