離れ離れになった、彼と彼女。

5/5
前へ
/10ページ
次へ
出口のそばにある、ベンチに腰を下ろす。 冬風にさらされ続けたベンチの冷たさが、足を伝わって心を刺す。 キヅキが私の隣に座った。ベンチが少しきしむ音がした。 「葵がいない世界で俺は、生きていく自信なんてない…。」 キヅキが空を見上げながら、つぶやいた。 私もつられて上を見る。 そこには、信じられないくらい澄み切った青が広がっていた。 高い高い空が限りなく続いていて、私は、自分がどこにも存在していないような錯覚に、陥った。 キヅキが言葉を続ける。 「中学、高校、大学まで、葵と同じだったのは、偶然なんかじゃなかったんだ。 葵にも、みんなにも言ったことなかったけど。 俺は、ずっと葵だけを見てたんだ…。」 『そんなの、みんな気づいてたよ…』 私は思った。 いつだって、キヅキは葵だけを追いかけていた。葵といるときに見せる笑顔は、本当に輝いていた。 私がどんなにキヅキを思っても、彼がその笑顔を見せるのは、葵といるときだけだった…。 そう、初めてキャンパスで出逢った、あの日からずっと…。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加