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出口のそばにある、ベンチに腰を下ろす。
冬風にさらされ続けたベンチの冷たさが、足を伝わって心を刺す。
キヅキが私の隣に座った。ベンチが少しきしむ音がした。
「葵がいない世界で俺は、生きていく自信なんてない…。」
キヅキが空を見上げながら、つぶやいた。
私もつられて上を見る。
そこには、信じられないくらい澄み切った青が広がっていた。
高い高い空が限りなく続いていて、私は、自分がどこにも存在していないような錯覚に、陥った。
キヅキが言葉を続ける。
「中学、高校、大学まで、葵と同じだったのは、偶然なんかじゃなかったんだ。
葵にも、みんなにも言ったことなかったけど。
俺は、ずっと葵だけを見てたんだ…。」
『そんなの、みんな気づいてたよ…』
私は思った。
いつだって、キヅキは葵だけを追いかけていた。葵といるときに見せる笑顔は、本当に輝いていた。
私がどんなにキヅキを思っても、彼がその笑顔を見せるのは、葵といるときだけだった…。
そう、初めてキャンパスで出逢った、あの日からずっと…。
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