序章

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フェンスが音をたてた。 「諒のバカヤロー!」 直が叫んで フェンスを乗り越えようとしている。 「ああばかだよ おれは」 おれは手を後ろに伸ばした。 冷たいフェンスに当たる。気配をもとに手をずらすと、直の指に当たった。 おれは直の手を掴むと、直はすかさず にぎり返した。 「……ばかで ごめんな」 振り返ったおれは、そう言うしかなかった。 直のぐしゃぐしゃに泣き濡れた顔がそこにある。 だけど やっぱ。 「きったねー顔」 最後に見る直の顔。 おまえらしくて 切なくて 可笑しい。 くつくつ笑い出したおれに、 直は拍子抜けして まごついた。 「なんで…謝るんだよ!そんで…そんで、こんな状況になって…笑うなよ!」 「鼻水 飛ばすんじゃねーぞ」 「うっ、うるさい!いいから 戻ってこい!」 直はほんのり耳を赤く染めながら、素っ頓狂な声を上げた。 おまえって、ほんと面白いやつ。 そんで、おまえに出会えて、良かったよ。 「ありがとうな!」 おれは唐突に言って、笑った。 そんな台詞吐くような事なんて滅多にないから、直は驚いた顔をしている。 おれは直の手の力の隙をついて手を抜き 繋がれた僕らは離れてく。 直が目を見開いて手を掴もうと伸ばす。それは虚しく。 おれは落ちていった。 さようなら。 直。 「まことおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
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