1章 僕と諒

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一年前。中学一年生の5月頃だった。 放課後の渡り廊下、かばんを背負って走り過ぎようとした僕は、驚いて立ち止まった。 西日の差し込む窓際で、見覚えのある不良グループに、誰かが囲まれていた。 (最悪だ。あれ、坂井じゃん。 同じ中学だったのかよ………。) 「おい」 グループの一人が坂井を小突いて、僕をさした。 坂井がこっちを見た。 僕は凍りついた。 坂井がこっちにくる。 (終わりだ。この世の終わりだ…) 「おまえ、一人か?ちょっと遊ぼうぜ」 坂井が笑った。並びの悪い歯。黒ずんだ目。豚みたいに潰れた鼻。ふてぶてしく膨れた身体…。 「こいや」 僕がまごまごしていると、坂井に腕を掴まれた。 (せ 先生…助けて!) 坂井に連れていかれるその先、グループに囲まれて 床に倒れ込んでいるやつと目が合った。 口の端から血を流してる。 痛みに顔をしかめ 垂れた前髪から覗いた瞳は狂暴な猫みたいに見開いていた。 僕は そんな彼の瞳に吸い込まれた。 ドスッ 「うっ!」 坂井に強く腹パンチを喰らって、僕は体を丸めた。 「おまえ一年だろ。どこの小学校だ」 坂井が言った。楽しそうだった。 「………木之本小学…」 「木之本?」 坂井は凄んだ。 「見たことねーなおまえ!名前はなんだよ」
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