1章 僕と諒

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「おまえ、診てもらわなくていいのかよ」 彼は後頭部に保冷剤を当てながら言った。 「うん…僕は大丈夫だった」 お腹の痛みも もう消えていた。 「帰るんなら気をつけろよ」 「君も、気をつけろよ。坂井のやつキレさしたらやばいからさ」 僕は殴られたあとの坂井の顔を思い出した。 そんで… 「殺してやろぉうかあ… だろ」 彼が 怖い顔して坂井の物まねした。そんでくつくつ笑い出したから、僕も思わず笑い出していた。 「あんな能無しにおれを殺せるかっての!」 「君、すごい度胸だよなぁ」 「度胸なんてないよ。ただ、おれん家 柔道ばかの親父がいるから…」 「いざとなったら 親父に助けてもらうって?」 「そうそう」 彼はにやっと笑った。 「なーんだ、根性なし!」 僕らは笑った。 見上げていた彼が、僕と同じ高さになって そんで一気に近くなった。 だけど ほんとはこいつ、ど根性持ちだ。 強い親父がいるからって自ら坂井に殴り掛かるのは別の話だ。 ふと、時計をみると塾の時間が迫っていた。 わ、やべ! 「そんじゃ僕、塾があるから」 「おう」 バックを背負って保健室を出ようとしたとき、彼が呼び止めた。 「あのさ お前… 名前は?」 僕が名乗ると、彼はにっと笑って 「おれ、津笠 諒。坂井に会ったら知らせてくれよ。 あいつらボコボコにすっからな」 「分かった。僕も協力するよ」
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