1章 僕と諒

23/39
前へ
/65ページ
次へ
――だめだ。僕ってば カッコ悪い…。 「パンチの練習しとけガキ」 坂井はそう吐き捨てて 去っていった。 行ってしまう。 「このやろう…覚悟しとけよ…」 坂井の姿が廊下の向こうに こんなに小さくなったころ、僕はその背に言い返した。 「…聞こえてねーよ。そんな遠くに」 諒は鼻筋を痛そうに触れながら、ゆっくり起き上がりやんわり言った。 「………」 僕は坂井の米粒みたいな影を、ただ廊下の真ん中に突っ立って見ていた。 「直、ティッシュ持ってない?」 「…………」 「先生に見られたらめんどくさいな… おれたちも行こう…」 「…………」 「…直?」 「……う ぅう…」 込み上げるものは抑えきれなかった。 「……」 諒は僕のそばへ歩み寄った。 「…おい まだ泣いてんの」 諒は心配げな口調で話しかけた…が、それは最初のわずかな一瞬だけで 僕の顔を見た途端、すぐに笑い出した。
/65ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加