『朝霧壊縁』

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朝霧壊縁〈アサキリ カイエン〉。 それが彼の名前である。 16歳の彼は奇跡的に核戦争を生き延び、今現在科学都市のとあるオフィスビルのロビーのような所にある、ズタズタになったソファーにねていた。 壊縁は、眠たそうな目をごしごしと掻いた。 「………ちっ」 壊縁は静かに起き上がった。 窓の外を見ると、猛烈な雪。否、吹雪。 壊縁がこんなにも冷静でいられるのは、慣れている訳ではない。 ただ、性格が『そういうもの』なだけだ。 いちいち反応をするのが面倒臭いだけなのだ。 戦争をするの面倒臭い。 戦いを行うは面倒臭い。 反応するのは面倒臭い。 驚くことはない。 壊縁にとって、核戦争とはそのような程度のものなのだ。 壊縁は一度、生々しい傷が残る死体を見たことがある。 惨いものだった。 壊縁はその時死臭や腐臭、血の臭いを嗅いだ。 「……くっだらねェ」 壊縁の脳裏に、一人の少女の死体が浮かんだ。
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