電話

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1月1日。 悲しいかな普段は殆ど鳴らない美里の携帯が珍しく鳴った。 相手は元職場の先輩、『渡辺 公平』。 年下だけど社歴は美里より随分長かったので先輩になる。 年下の先輩って初めてだったので困った。プライベートだときっといいヤツなんだろうけど、仕事では密かに手を焼いていた相手。 でも、実はそんな気持ちとは裏腹に、密かに恋心を抱いていた相手でもある。 ほのかな恋心は伝えないままに美里は職場を去ったのだけれど、そんな相手からしかも正月真っ只中に電話がかかってきたもんだから、若干動揺してしまい上ずった声で電話に出てしまった。 『はぃ、もしもしぃ?』 『あ、あけましておめでとうございます、渡辺です』 第一声は丁寧なのだ。 『お、おめでとうございます…どーしたんてすか?今実家?』 …やっぱり動揺してる。アラフォーに手が届こうかという歳にもかかわらず…情けない。矢継ぎ早に喋ってしまった。 『いや、雪で交通機関が完全マヒしちゃってて…結局今まだ帰れてなくて。今回は諦めようかな~って思ってんスよ。 で、こんな俺と誰か遊んでくれる人いねーかなと思って木村っちに電話してみました。』 木村美里。着任直後からヤツは美里の事を勝手に木村っちと呼んでいる。 『え、いいけど…どうせ出かける予定なんか無いし。でも元旦に開いてる所なんて…神社くらいじゃないの?』 『あぁ~…俺人混みチョー苦手なんスよね』 『じゃぁ~…どうしよ?』 もおっ私はアンタと初詣に行きたいのよっっ!気付けコノヤロー!その他のネタは持ってないんだよっ! あからさまにアピールしたい気持ちを必死に抑える事で精一杯だった。 『ん~…、まぁこっち来てそういう所って全然行った事ないし、行ってみてもいっかなぁ…連れてってもらっていっスか?』 おぉっと!?どうした?ありえない展開。あんなに人混み嫌いなこの男がこんなにアッサリ納得するなんて。 まぁいいや、お正月デートか、何年ぶりだろう…。 訳の分からない妄想をしつつ、美里が迎えに行く約束をして電話を切ったのだった。
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