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「んじゃあ、また明日な」
テルと一緒に帰るつもりだったが、どうやらテルは学校で済まさなければならない用事があるらしく、オレを玄関まで見送りに来てくれた
「………」
テルは立ち止まり、無言のまま遠くを見つめている
シカトかよ
まぁいつものことだが…
数秒間黙視したが、一向にこちらを見る気配が無かったのでそのまま帰る事にした
ところが、先刻まで蝋人形のように動かなかったテルの唇が突然動き出した
「1ヶ月前その遺跡で、ある“モノ”が発掘された」
ーーっ!?
予測不能な友人の言動に不審を覚えたオレは、彼の口から紡ぎ出される第二声を待った
「ソレは現代の科学技術を以てしても製造は不可能とされ、多くの研究者の興味を引き付けた」
さっきの話しの続きなのか?
テルは機械的に語り続ける
「周辺に刻まれた文字を解読した結果、当時の人々が“ソレ”を神として崇めていた事がわかり、研究者達はギリシャ神話の神になぞって、ソレを“クロノス”と名付けた」
「テル?」
明らかにおかしい…
「更に解析を続けた結果
科学者達は、クロノスの内部に高密度のエネルギー結晶体がある事を突き止め、クロノスの内部構造を解明することを決断
そして彼らは遂に開けてしまった
…………パンドラの箱を」
顔を上げたテル、その眼は見開かれ、灰色の瞳はオレを映し出し、その唇は両端が高く吊り上げられ、狂ったような笑顔を作り出していた
「お…おい」
本当にテルなのか…?
色々な疑念がオレの脳を駆け巡る
こいつに一体何が…
「クっクっクっ」
再び表情を変え、テルは優しく微笑んだ
「っ!?」
「冗談だ
驚いたか?」
「冗談…だったのかよ」
あまりの変容ぶりに動揺していたオレは胸をなで下ろす
「結構面白い作り話だったろ?」
テルはいつものような無表情に戻る
「キャラ崩壊かと思ったよ」
あえて何事も無かったかのようにオレは答えた
「別れる前に一つだけ」
テルは何かを予感させるような瞳でオレを見据え、言葉を発した
「どんなに荒廃した世界でも
そこには必ず
“希望”はある」
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