376人が本棚に入れています
本棚に追加
それでも体力には限界がある。
僕は、病院の院長から呼び出され
『このままでは、母胎も危険なので、帝王切開になるかもしれないから、書類に印鑑が欲しい。』
と言われた。
陣痛室に戻り院長から伝えられた事を妻に告げていると看護士が様子を見に来て、
『帝王切開より自然分娩の方が、いいのよ。奥さん頑張って!』と妻を励ましてくれた。
その看護士をよく見ると、なんとなく見覚えがある。
僕の母の知人だった事を思い出した。
向こうは始めから気が付いていたらしく僕に目配せをしてくれた。
僕は妻を看護士に頼み、病院を出て、自宅へ急いだ。
印鑑を取りに行きながら(あの院長、妻の腹を切るなよ。切ったらぶっ殺してやる)とか(僕の命は、いらないから妻と子供の命だけは助けて下さい)などと真剣に祈っていた。
病院に戻ると妻の母と僕の母、僕のふたりの妹が来ていた。
皆が言うには、今し方分娩室に入っていったらしい。
30分程すると下の妹が、ポツリと
『これだけ生まれる前から、父親に心配かけるなんてきっと女の子だよ。』
と男児を望んでいた僕にイヤな予言めいた事を言った。
最初のコメントを投稿しよう!