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■ ■
たったった――
ほの暗い廊下を男が走っている。
窓の外は白く染まっており、現時刻が推定すらもできない様な、薄暗い中学校の廊下を男はしゃにむに走っていた。
まるで―――
まるで何かから逃げるように。
男は開いている教室を見つけるとそこに飛び込み、中から鍵を閉めて教室の隅へと身を寄せて小さく丸まる。
「ここなら大丈夫だ……ここなら追ってこれないはず」
自己暗示をかけるがの如く、男はぶつぶつと呟く。
「鍵はかけた。俺はこの中学校は良く知っている……なんていったって卒業した学校だからな」
けれど、と男は言いながら窓の外に目を向ける。
端的にいえば、白い。
窓の外は一面真っ白に染まっていた。
雪が積もっている……わけではない。
何もかもが白い。むしろ、白いだけで何も見えないし、何も無かった。
「ここは本当に俺の母校なのか!? 白い、見渡す限り! 白いっ!」
遠近感を失うような純白の世界を見ながら男は叫ぶ。狂ったように、叫ぶ。
「はは……、ははははははははははは…………」
がらっ、と。
笑っている男の後方から扉が開く音が聞こえた。
学校の、木製の扉が独特の音を立てながら開かれた。
そして。
「たかゆき、見つけた」
そんな少年の平坦な声が聞こえる。
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