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工藤がゆっくりと僕の方に近付いてくるのが見えた。
もちろん、今の僕には彼の足しか見えない。
だから、彼がどんな顔をして僕に近付いてきているのかなんてわからない。
だけど、きっと笑顔を浮かべているのだろうと僕は思う。
「美紀はね、俺の恋人だったんだよ。俺が生きている頃はね。彼女はいつも言っていたんだ。『私は何があっても、あなた以外を好きになんてならない』とね」
工藤はゆっくりと僕に近付きながら、さらに話を続ける。
「それなのにどうして君と付き合って、そして結婚することになったんだろう。俺もずいぶん調べたよ。すると、君がずいぶん彼女を口説いたそうじゃないか。『死んだ恋人のことはわすれるといい』などと言ってね。そこまでして、俺の恋人を奪いたかったのかい?」
「知らなかったんだ。美紀の恋人が君だったとは」
僕は必死に弁解した。
だけど、工藤は話し続ける。
「もう、彼女は僕のところには戻ってこない。だけど、心配しなくてもいいよ。彼女も僕を裏切って、君と関係を持ったんだ。同じように処刑する必要があるからね。すぐにここに連れてきてあげるよ」
工藤はそう言うと、僕の目の前に何かを置いた。
それと同時に、工藤の首が僕の横に落ちてきた。
僕は一瞬、工藤の方に視線を向けてから、工藤が僕の前に置いたものを見た。
それは鏡だった。
そして、そこには、笑顔を浮かべる僕の生首が浮かんでいた。
(完)
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