笑顔

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空っぽになったグラスをシンクに置いてからベッドに戻り、ゆっくりと横になったところで、突然、テーブルの上で携帯電話が鳴り出した。 電話に出るかどうか、僕は少し悩んだけれど、ひどい睡魔に勝てそうもなかったので、そのまま放っておくことにした。 僕は布団に潜り込んで目を閉じた。 しかし、電話が切れる様子はなかった。 僕は頭まで布団を被り、手で耳を塞いだけれど、それでも電話の着信音は容赦なく僕の耳に入り込んできた。 しばらくの間、僕はその状態で耐え続けたが、それでも電話は切れそうになかった。 僕は諦めて、電話をとるためにベッドから這い出した。 携帯電話を手に取ると、液晶ディスプレイには見覚えのない電話番号が表示されていた。 とはいえ、見知らぬ電話番号からの着信は、昨夜からずっと続いているので(僕に連絡してきた友人達の電話番号を僕は殆ど知らなかった)、今さら何の違和感もなかった。 どうせまた、中学時代の友人の誰かだろう、僕はそんなふうに思いながら電話に出た。 「もしもし」と僕が言うと、「もしもし」と低く掠れた男の声が聞こえてきた。 それから、電話の向こう側の男性は続けて言った。 「俺、工藤だけど、憶えているかい?」 僕は少し考えてから、「ああ、憶えているよ」と答えた。 昨夜見た卒業アルバムには確かに彼の名前があった。 中学三年生の時に同じクラスだったので、彼と僕とは同じページに写真を並べていた。 とはいえ、僕と彼はそれほど仲が良かったわけではない。 彼はどちらかと言えば、地味で暗く、友達がいないタイプの生徒だった。 僕も彼とは最低限の会話を交わした程度の記憶しかない。 そんな彼から電話がかかってくる理由が、僕にはわからなかった。 それでも、彼もまた懐かしい思い出を共有する人間の一人には違いない。 僕と彼との間にも、思い出話の花が咲いた。 工藤と話しているうちに、彼が同じ町に住んでいることがわかった。 地元から遠く離れたらこの町に、中学時代の同級生が住んでいるというのは、ずいぶん不思議な感じがした。 そして、話しはトントン拍子に進み、僕達は久しぶりに会うことになった。 とはいえ、僕はこれからしっかりと睡眠をとらなければならないので、彼が夕方、車で僕を迎えにくるということで、話は纏まった。
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