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「疲れただろう? 酒でも飲もう」
工藤はそう言うと、立ち上がって、キッチンからウィスキーのボトルと氷の入ったグラスを二つ持ってきた。
そして、持ってきたグラスをちゃぶ台の上に並べた。
「ずいぶん渋いものを飲むんだね」
僕は言った。
「ああ、ウィスキーが好きなんだ。特にアイラモルトがね」
工藤はそう言ってから、ボトルの栓を抜くと、「ロックでも構わないかい?」と僕に確認した。
「構わないよ」
僕は答えた。
しばらくすると、工藤は冷蔵庫の中から何かを出してきた。
それは、キノコの炒めものだった。
「この辺りでとれるキノコなんだけれど、結構おいしいんだ。これをつまみにしよう」
工藤はそう言った。
一口食べてみると、確かにそれは歯ごたえがあって、ずいぶんおいしかった。
気づけば時間だけが過ぎていた。
すでにウィスキーのボトルは一本空いている。
工藤は酔っているのか、ずいぶん紅い顔をしていた。
だけど、きっと僕も、同じような顔をしているに違いなかった。
空になったグラスにウィスキーを注ごうとボトルに手を伸ばしたとき、僕の携帯電話が鳴り出した。
液晶ディスプレイには黒木の電話番号と名前が表示されていた。
僕は通話ボタンを押して、電話に出た。
「よう、いま何しているんだ?」
黒木の大きな声が、僕の耳に飛び込んできた。
「酒を飲んでいるよ」
僕は答えてから、さらに付け加えた。
「ところで、どうして君は言うなということを勝手に他人に喋ってしまうんだい?」
「は? 何のことだ?」
「僕の結婚のことだよ」
「誰にも喋ってなんかいないぞ」
黒木は訳がわからないといった様子で答えた。
だけど、僕は黒木が喋ったのだと完全に決めつけていた。
「工藤に話したんだろう? 婚約者の名前まで」
僕の問いに、黒木はすぐには答えなかった。
そして少し間を置いてから、「工藤って誰だ? それに俺はお前の婚約者の名前なんて聞いていないぞ」と言った。
僕は黒木の言葉に多少の違和感を覚えながらも、まだ黒木の言うことを信じ切れていなかった。
「何を言っているんだよ。中学生の時の同級生の工藤だよ。冗談もほどほどにしてくれよ」
僕の言葉に対して、黒木はまたもやすぐには反応しなかった。
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