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しばらくの沈黙の後に、黒木は僕をからかうかのように言った。
「お前って、本当に嘘が下手だよな。どうせ婚約者とでも飲んでいるんだろう? 照れ隠しなんていらないぞ」
「何を言っているんだい?」
僕が言うと、黒木は少し驚き慌てた様子で言った。
「だって、工藤は何年か前に死んだだろう。福岡県の山の中の一軒家で、首と胴体が綺麗に切り離された状態で発見されたと、新聞にも出ていただろう。憶えていないのか?」
僕は記憶をたどった。
そうだ、確かにそのような記事が出ていた記憶がある。
そして、僕はそれが中学時代の同級生だということも、その時に認識していた。
それが、工藤だということも、僕はその時に認識していたのだ。
どうして僕がそのことを忘れていたのかはわからない。
だけど今、その記憶は完全に僕の中に蘇った。
そして、一気に背筋が凍りつく。
工藤の方に視線を向けると、いつの間にか彼は立ち上がり、不敵な笑みを浮かべながら、僕を見下ろしていた。
僕は彼から逃げるために立ち上がろうとした。
だけど、完全に腰が抜けてしまい、下半身は僕の思い通りには動かなかった。
僕はガタガタと震えながら、必死に後ずさった。
すると工藤は、ゆっくりと窓に近付き、一気にカーテンを開けた。
その瞬間、さらに僕の背筋は凍りついた。
そこには無数の生首がさまよっていた。
雨が窓を叩いているのだと思っていた音は、そこを漂う生首が窓にぶつかって立てられていた音だったのだ。
そして、その生首はどれも、満面の笑みを浮かべていた。
僕は恐怖で完全に動けない状態だった。
そんな僕を見て、工藤はニヤリと笑うと、窓を全開にした。
その途端に、笑顔を浮かべた生首達が部屋の中に飛び込んできて、僕を取り囲んだ。
何とかしなければ、そう思った僕は、勇気を出して、大声で叫んだ。
それとともに、体に力が戻ってくる。
今だ、そう思った僕は、下半身に力を込めて立ち上がった。
その瞬間、僕の視界がグラリと傾き、回転しながら、どんどん急降下していった。
そして、ドタッという大きな音とともに、僕の視界の回転はおさまった。
首を失った僕の胴体は、そのままゆっくりと床に崩れ落ちた。
首だけになった僕は朦朧とする意識の中、畳の海を眺めながら、学生時代に友人から聞いた話を思い出していた。
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