はじまり

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「お前らちょっと向こう行ってろ」 「へへっ、オレら兄ちゃんの邪魔なんかしないぜー」 「じゃあねかのじょさん!」 そう笑って部屋の奥へ去っていく二人の背中を茫然と見つめていたら、いつの間にか恐怖心が消えていることに気付いた。ああ、なる程。あの子達のおかげか。 「…えっと、それでこれつまらない物ですがよかったらご家族の皆さんと食べてください」 未だ真っ赤な顔をした男の人に紙袋を向ければ短い眉毛をピクリと動かし、ありがとうございますと礼を言ってから受け取った。 「宮原さん、でしたっけ?」 「はい」 「弟達がなんか色々言ってましたけど、よく言って聞かせるんで…本当にすいませんでした」 相変わらず表情は怖いんだけど、いくらか柔らかい表情ですまなそうにする彼は、そんなに悪い人ではないのかもしれない。 恐怖心が薄れたおかげで、まじまじと男の人を見ればそんなことを思えるようになっていた。 確かに赤茶の髪に細い眉毛。これでもかってくらいに睨み付けているように見える目に眉間のシワ。だけどどこかカッコよくも見える顔立ち。つまり、よくよく見ればかなりカッコいいわけだ。まあ怖いんだけど。 「あんまり気に病まないでください。えっと…それじゃあ他にも挨拶まわりがあるんでおいとまさせて頂きますね」 「あ、はい…あの」 「ん?」 「いや…わざわざありがとうございました」 やっぱり顔は怖いんだけど、怖くないや。 ヘラリと笑って扉を閉め、あたしはもう一つの紙袋を握り締めて逆隣の部屋へと向かった。
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