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兄やら妹やら兄妹こそいなかったけれど、優しい両親がいて日々平和に暮らしていたそんなある日、お父さんが急に昇進して本社に戻ることが決まった。必然的に付いていくことになったあたしとお母さんは友達やらご近所さんに挨拶もそこそこに、新しいマイホーム(と言う無のマンション)に引っ越したのだった。急な引っ越だったからか、お母さんとお父さんは引っ越してからも部屋の片付けをしたり市役所なんかに行ったと慌ただしくしていた。
「…だからってなぁんで隣の家にあたしが挨拶しなきゃいけないわけ?」
ブツブツと文句を呟きながらお菓子の箱が入った紙袋を手に右隣の玄関の前に、あたしは立っていた。つまり、あたしは隣人の挨拶用の紙袋を二つ持たされ家を追い出されたわけだ。いくら忙しいからって娘に挨拶を任せるかね、普通。
ため息を一つついてからインターフォンを押すとピンポーンと電子音がマンションの廊下にも響いた。
『……はい、どちら様ですか?』
機械越しから聞こえる声に隣の者だと告げれば「ああ」と短い言葉をこぼした後、ガチャリとその扉を開いてくれた。
「こんにちは、あたし隣に越してきたみっ!?」
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