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「あ、ココア忘れた」
「ははっ! 最後までハナちゃんだなぁ、もう」
「……私は、ずっと私だよ」
私は薄く笑ってユウ君を見つめた。
「……俺も、ずっと俺だよ。ずっとハナちゃんが好きだよ」
私達はどちらからともなくキスをした。
最初した時みたいに軽く触れるだけの、一瞬の――最高のキスを。
それからただ、その時を待った。
線路側を真っ直ぐ見つめたまま、手だけはしっかり握り合って。
会話は、言葉は、出なかった。
一言でも発してしまったら……。
乾いた唾を飲み込んだ時、ホームに案内が響いた。
私を連れていく新幹線が、ゆっくりと、目の前に。
そっ、と手を離した私はキャリーバッグを持った。
「――俺が、持つよ」
「……ありが、と」
くそ……声、震えるな……っ。
私はもう一度唾を飲み込む。
ゆっくりと乗車口に近づき、キャリーバッグを乗車口に乗せたユウ君は一歩下がった。
私は乗車口に一歩、上がった。
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