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その道は街灯がなく、人もあまり通らない裏路地のような道だった。
彼はこの灯りのない真っ暗な路地を通った時に、ここ数年こんなに暗い場所を歩いていなかった事を思い出していた。
慣れない道で、しかも街灯も人気もない道というのはこんなにも不安を覚えるものなのか。彼はそんな事を考えていた。
そして二度ほど角を曲がって進んだ時、うっすらと蝋燭のような灯りの灯る店が視界に入った。
そこは小さな雑貨屋のような店で、裏路地の中で一際存在感を放っていた。
店の入り口の脇には、縦書きで「寄ラズ屋」と書かれた看板が置いてあった。
黒い板に赤い活字体で書いてある。
しかし店内から磨り硝子越しに漏れる光は、営業しているのかどうか確信が持てないほどに乏しいものだった。
彼はその時、家路を急いでいたはずなのだ。
もしこの店がこんな場所ではなく、表通りに面していたり、街灯の光がこの路地に少しでも届いていたなら。
彼はこの店を目にもとめずに通り過ぎていたはずだった。
しかし、彼が店に足を踏み入れてしまった一番の理由は、彼の最近の日常が多忙であった事だろう。
彼は多忙だったのだ。
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