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「気にせずゆっくり見ていってくれ。値段が知りたければ聞いてくれればいい。」
彼はまず最初に、ここは何のお店なのか、ということを尋ねてみた。
店員は言った。
「ここはよろず屋さ。なんでも売ってるよ。
あんたも欲しい物を買えばいい。
でもウチは、ただのよろず屋じゃあない。商品の値段はこっちで決めさせてもらう事にしている。」
彼はこの言葉に、胡散臭さを感じなかった訳ではなかった。
しかしそれに勝るほどの好奇心があったおかげで、彼の表情は相変わらずどこか楽しそうだ。店員もそれを察しているらしく、続けてこう言った。
「あんたがさっき持ってた小瓶は忘れ薬だ。色が何種類もあるが、効力は全部一緒さ。
自分の頭の中の記憶や思い出、好きなのを選んで忘れる事ができる薬だ。」
彼は忘れ薬という名前から、ある程度の効力を予想していたようだった。
彼はうっすらと笑みを浮かべながら、店員に向かって本当に効くのか、と聞いた。
店員は彼に背中を向けてタバコに火を付けた。
そして煙を目一杯吸い込んだ後、部屋の隅にある揺り椅子に近づいた。
揺り椅子に彼の方に向いて座り、足を組んで、煙を吐き出しながら店員は言った。
「信じるかどうかはあんたの自由だ。
もっとも、あんたの顔は疑ってるようには見えないがね。」
彼は笑みを崩さなかった。
さらに店員に、忘れ薬の値段を尋ねた。
「忘れ薬は1瓶で5万円だ。けどあんたには特別に1万円で売ってやろう。
この薬にはある副作用があってね。それでこの値段なんだ。」
ここまで聞いても彼は笑みを崩さない。
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