体験談その1

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彼は11時前に店を後にした。灰色の紙袋を持って。 彼はあの後、店員から薬の副作用について話を聞き、持ち合わせの金で忘れ薬を購入した。 店員からは、割引してもらった上にオマケまでつけてもらった。 店を出た彼は、店に入る前よりも軽い足取りで歩き出す。 暗さがさらに深くなった裏路地から、街灯に照らされる表通りに小走りで助走をつけて飛び出た。 表通りに足を揃えて着地したときに、彼は些細な違和感を感じた。 彼が表通りにでると、世界は彼の耳や目から遮っていた音や色を強くした。 彼は街灯の光を見上げた。 光はこの世界を照らしている。そしていつの間にか降っていた初雪を彼に見せた。 彼が落ちる雪を目で追うと、雪はやがて見えなくなる。 消えた後には、深い闇が広がる裏路地があった。 寄ラズ屋の灯りは、もう消えた。 違和感と一緒に。
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