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テレビからは通販番組の司会役の、妙に甲高い声が流れている。
彼は二本目のビールを一口飲み、先程湯を入れたカップめんの蓋を全開にした。
忘れていた粉末スープを入れて、遅めの夕食を取り始めた。
寄ラズ屋を出たときからずっと彼は考えていた。
この薬の効力を試したいという気持ちが、少なからず彼にはあった。
だが家に到着する頃には、その期待は困惑へと変わっていた。
忘れ薬の使い道。
半ば衝動的に購入したが、彼には過去の人生の記憶の中に、あえて忘れたい記憶といえる物が有るわけではなかった。
カップめんのスープを二口ほど飲み、箸をおいた。
そして残ったビールをのみながら、部屋の中を見回してみた。
彼の部屋には沢山のものがある。
テレビとソファ、コタツにストーブ。夏用の扇風機に空気清浄機やパソコンもある。
それらの生活家電に加えて、小学生の頃から弾いているギターなど趣味の物もある。
そして彼の部屋にある物で一番スペースを取っている物があった。
部屋を見回していた彼の目は、テレビの横にある本棚で止まった。
その瞬間思い出したように立ち上がった彼は、飲み干そうとしていたビールを机に置き、本棚に近づいた。彼はある一冊の小説を取り出した。600ページほどの分厚い推理小説だった。
彼がいままで読んだ推理小説の中でも、一番心に残る衝撃の結末と、主人公の名推理を描いた作品であり、彼を推理小説の虜にした作品だ。
彼は読書家だった。
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