クリスマスに死を込めて

9/9
前へ
/16ページ
次へ
「なんか賑やかだね、やっぱり」 カップルなどで賑わう町の中、俺とイヴは歩いていた。 綺麗なイルミネーションがピカピカ光り、いつも見る風景とは違う町はまるで別世界のように思えた。 でも、俺達にとってはその光りは絶望でしかない。 決して俺達はリア厨にはなれないのだ。 「イヴ、お前もそうなのかい?」 にゃあ、とただイヴは鳴くだけ。 「そうかい」 猫と話をすることは叶わないが言いたいことはなんとなくわかる。 イヴは今この状況を楽しんでいるようだ。 「お前は気楽でいいな」 にゃあ、と鳴いたイヴが「そうでもない」と言っているように聞こえた。 しばらく歩いている内に目標ポイントの一つ――クリスマスツリーにたどり着いた。 「イヴ、ちょっと降りてな」 イヴを肩から降ろすと俺は小型の爆弾をポケットから取り出しツリーへと歩く。 まったく忌々しいな……こんなものは俺達を不幸せにするだけだというのに。 そっと爆弾を木の根の影に設置するとなに食わぬ顔でイヴのところへ戻る。 「ただいまイヴ」 にゃあ、と鳴いたイヴは多分「おかえり」とか言ってくれたに違いない。 「じゃあそろそろ小屋に戻ろうか。イヴ、お前も寒いだろ?」 イブは鳴かない。 「なんだい、もう少し歩いていたいのかい?」 にゃあ、とイブは鳴いた。 「お金はないから何も買ってやれないけど……いいよ、デートの続きだ」 なんとなく、だけれど俺にはイブが嬉しそうに鳴いた気がした。 そんなわけで俺達は小屋へは戻らずにしばらくこの綺麗で汚い町を歩くことにした。 「まったく……猫は炬燵で丸くなるんじゃなかったのかい?」 にゃあ、と鳴くその仕草には「他の猫と一緒にするな」と言っているように見えた。 「はははっ、猫にも厨二病があるとは知らなかった」 外から見ていたら俺は相当の変態に見えたことだろう。 でも俺は楽しいからいいんだ。 俺が楽しいからきっとイヴも楽しい。そんなものだと思うよ、俺は。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加